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が、練吉が駆け登つたのを見ると、先方の男は急に威丈高になつて怒鳴つた。
と、加藤巡査はくり返した。
と訊いた。
「いゝ恰好で!」
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
男は力なげに口をあけていた。
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」
その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。
さう声をかけながら、練吉は近眼鏡の下から切れ目をぱちぱちさせ、気安げに、眠つている道平の顔の上にのぞいた。
だが、そのとき、この野心の塊かたまりのやうな若い医者に前もつてたゝみこまれていたさまざまな思案が頭をもたげた。この機会をのがしてはならないぞ、さう思ふのといつしよに房一は急に形をあらためた。
「お髯がなくなりましたわ」
今度は、徳次も完全にびつくりしてしまつた。彼のきよろりとした眼には、どこか少し先きで火事があると聞いた時のやうに、何だか落ちつかない、興昧ありげな色が浮んでいた。